野村克也氏がつぶやいた短期決戦を勝つ鉄則 「山と川があるんや。分かるか？」

　それが今……。オレは博多のホテルの一室にこもり、コラムを書き出した。11月25日午後11時が過ぎてのこと。そう、日本シリーズはソフトバンクの圧勝日本一で幕を閉じた。なんだか複雑な気持ちである。締め切りには間に合ったが。まさか巨人が4連敗とは。オレの戦前の予想は4勝2敗でソフトバンクやった。結果は順当。しかし、ここまで力の差を見せつけられるとは。原(原辰徳)監督がどんな思いで現実を受け止めたのか。オレには十分に理解できる。

　日本一になる難しさをオレも経験している。2005年、リーグ優勝して、自信を持って臨んだ日本シリーズやった。下馬評も阪神有利とされ、オレには頂がすぐそこに見えていた。ところが真逆の展開になる。相手のロッテの勢いはすさまじいものやった。今江(今江敏晃=現楽天コーチ)というシリーズ男が生まれ、ホンマ、コテンパンにやられた。千葉で連敗し、地元甲子園で立て直そうと挑んだが、簡単なことではなかった。まったく自分たちの野球にならず、なんと4連敗。ショックやったし、毎年日本シリーズの時期になると、どうしても思い出してしまうんよね。力の差はない。いや力では上と確信していただけに、ずっと引きずっている。

　今年の日本シリーズ、ソフトバンク有利という予想が大方だった。オレもそうだし、ほとんどの評論家がそう判断していた。だが勝負の世界だ。巨人にもチャンスあり。そのひとつのファクターが第1戦だった。エース・菅野(菅野智之)が千賀(千賀滉大)に投げ勝つこと。これが巨人日本一への絶対条件とオレは考えていた。ここで勝つこと、それは単に1勝だけにとどまらないものになる。シリーズの主導権を握り、いける！という空気が生まれ、チームに大きな活力を生むことになる。

　それが狂った。菅野が千賀よりも先に崩れた。栗原(栗原陵矢)に先制2点本塁打、さらにタイムリーを浴びてしまった。一方の千賀は快調に投げ切り、明と暗、鮮やかなコントラストが浮かび上がることになった。

　この1戦目で流れはソフトバンクに傾いた。短期決戦では、流れは重要な要素である。それがモロに出た2戦目やった。巨人投手陣は、ソフトバンク打線に痛打を浴び続けた。大勝と大敗……。この流れを巨人は食い止めることができないのか。

　オレは1日の移動日、そして舞台が変わることで、わずかな望みが生まれると、淡い期待を寄せた。そしてゲームの中で主導権を奪うには、何よりもまず先制すること。これが必要だ、と思っていた。第3戦、そのチャンスが訪れた。先制機を得て、巨人の攻撃をネット裏から見つめたが、ここでバント失敗というミスが出る。こんなことをしてたら勝てん。典型的な攻めミスで、傾きかけた流れを手放してしまった。こうなるとバッターは余計に焦り、力みだけが目立つ。坂本(坂本勇人)、岡本(岡本和真)、丸(丸佳浩)と主軸はまるで自分のスイングができていなかった。9回二死までノーヒット。こんなことが起きるのも野球なのだ。